1/2/3/4/5/6/7

文章でも漫才でも、言葉数の多い俺は、こんなことも堂々巡りしてよく考える。

「言葉と感情表現だったら、どちらがより伝わるのだろう?」

たとえば、ヘレン・ケラーが「ウォーター」という言葉を覚えたことで失った感情表現がどれぐらいあるのだろうって。おそらく彼女は、言葉を得たことで自分の世界が広がっただろうけど、言葉にできない感情はウォーターを口にする前よりも、こぼれ落ちていったはずだから。

高校時代の俺は、ノートに詩を書いたりしていた。たとえば、無力感だったり孤独感といった複雑な感情を抱いている時、ひとことでその感情を言葉にできないのはひどく心が重くなるもの。でも、嘘でもいいから「悲しい」と書く。本当の心の中にあるのはもっと複雑な思いで「悲しい」だけでは正確に表現できないんだけど、とりあえず言葉として「悲しい」と書くことで気持ちが救われた。ヘレン・ケラーがウォーターという言葉を覚えてこぼれ落ちた感情があるっていうのと逆の作用で、「悲しい」と言葉にして書いてしまえば、複雑な他の感情は全部こぼれ落ちて「悲しい」に代表される。それは、ごまかしかもしれないけど、当時の俺は、今の自分の気持ち=悲しいと納得ができた。そうすると、次は言葉数が増えていく。

1/2/3/4/5/6/7
文:唐澤和也
太田光しごとのはなしトップへ

ぴあ映画生活トップへ
(c)ぴあ株式会社