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その学生に俺の言いたかったことがどこまで響いたかはわからないけど、たとえば、その時の会話だってある意味でのオリジナリティが含まれていると思う。学生が質問をした。俺が答える。俺の答えは既に誰かが口にしたことのある言葉かもしれない。でも、家に帰ってその学生がその言葉の意味を問い続ける。俺も考える。会話なんてものは誰のものでもないけれど、そういう意味では、あの時の会話と以後の経験は、その学生と俺でしか生み出せなかったなにかがあるはずだから。

そもそも、教育現場での昨今のトレンドである「個性的であれ」という風潮も俺には意味がわからない。まったく同じDNAを持つ人間がいないのと同義で、まったく同じ経験を積む人間もいない。であるならば、個性的じゃない人間なんているはずがないだろと

もちろん、多くの人が、俺がさっき言った意味での「オリジナリティ」ではなく「完全なるオリジナリティ」を目指す気持ちは理解できる。

ただ、よくよく考えてみると、ある人間がその高みに到達したとしても、先人たちの知の滑走路がなかったらそこまで飛べてないだろとも思う。たとえば、アインシュタイン。彼以前の先人たちが科学という名の知識を積み重ねなかったのなら、アインシュタインは相対性理論に到達できてはいなかったわけでしょ? 決して、いきなりポーンと高みに向かって飛んだわけじゃない。ピカソも然り。ピカソ以前の絵画の歴史がなく、いきなり「泣く女」を描いて価値があったかというと決してそうじゃない。それまでの絵画の世界の積み重ねがあったからこそ、ピカソのオリジナリティは輝きを放つ。

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文:唐澤和也
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