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まぁ、どこまでを芸人と呼ぶかという話だけど、チャップリンもたけしさんも舞台に立ってネタを披露するという意味においての芸人ではなかったからね。もちろん、たけしさんは漫才ブームでネタをやっていたけれど、その後は自分の番組が人気を集めてどんどんビッグになっていく。俺は、その過程を夢中になって追いかけていたから「たけしさんのようになりたい」とは夢みても、「芸人になりたい」とは思わなかった。この点は、「チャップリンのようになりたい」と夢想した小学校高学年の感覚に近い。

だから、たけしさんが『戦場のメリークリスマス』に出演した時は衝撃的だった。その感情は「感動」とかではなく、はっきりと「落胆」だった。高校3年生の5月のことだ。今でも鮮明に覚えているが、同映画の公開初日、俺は新宿の映画館で立ち見でスクリーンを凝視していた。「こんな演技、とてもじゃないけど俺にはできない」、そう思った。チャップリンを通じて好きになった映画に、世間を笑わせまくっていたたけしさんが進出するなんて……。新宿の映画館からの帰り道、俺はずいぶんとうつむいていたと思う。

のちに、たけしさんが『その男、凶暴につき』で映画を初監督した時は、逆にほっとしたものだ。その作家性は、俺が撮りたい映画とは違う方向だったからだ。まぁ、俺の場合、映画をいつ撮れるかなんて全然わかんないんだけれど(苦笑)。

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文:唐澤和也
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