ラストのどんでん返しで
驚きを超越した快感に浸る
観客にスリルと知的好奇心を提供するサスペンス&ミステリー系の映画は、ハリウッドが最も得意とするジャンルだ。しかし単なる驚きを超越した〈快感〉に浸らせてくれるほどの傑作には、そうそうお目にかかれない。『ユージュアル・サスペクツ』『セブン』『ファイト・クラブ』『シックス・センス』『ソウ』……。これら誰もが認める最高級のサスペンス・ミステリーに共通するのは、ラストに用意された極上の〈どんでん返し〉。『ディパーテッド』でアカデミー賞4部門を制した巨匠マーティン・スコセッシとレオナルド・ディカプリオの4度目のコラボ作『シャッター・アイランド』は、このハリウッド最強のコンビがずばり〈究極のどんでん返し〉の映像化に挑戦した野心作なのだ。

『ミスティック・リバー』の原作者として名高いベストセラー作家デニス・ルヘインの同名小説に基づく物語は、1954年9月、主人公の連邦保安官テディ・ダニエルズと相棒チャックがボストン沖の孤島を訪れるところから始まる。〈シャッター・アイランド〉と呼ばれるこの島には、精神を患う犯罪者だけを収容した監獄病院があるのだが、子供3人を殺害したレイチェルという女性患者がそこで突然失踪してしまったのだ。レイチェルが消えた病室は外からカギがかかった密室状態で、唯一の手がかりは〈4の法則〉と題された暗号メモのみ。かつて最愛の妻を火災で失ったテディは、難事件の真相を探りながら、この病院に収容されているはずの憎き放火魔レディスへの復讐を果たそうとするのだが……。
巧妙型と荒技型が融合
新たなミステリー大作
迫りくる嵐のせいで外界への脱出手段が断たれた〈孤島〉は、このうえなくミステリーにうってつけの舞台設定だ。私たち観客は、怪しさに満ちた病院、灯台、断崖絶壁、洞窟などを探索する主人公テディの行動を追いながら、次々と判明する意外な事実とそのたびに浮き上がってくる新たな謎に翻弄されるはめになる。先読み不可能なストーリー展開に、凄惨な戦争体験や妻を亡くしたトラウマに苦しむテディ自身の人間ドラマが加わり、映画が進めば進むほどミステリーの迷宮感は深まるばかり。超一級スタッフを率いて幻惑的な映像世界を築き上げたスコセッシのさすがの演出力と、ディカプリオが披露する極限状況下の入魂演技に圧倒されずにはいられない。そしてクライマックスには、満を持して前述の〈究極のどんでん返し〉が炸裂するという構成になっている。

もちろん、ここで謎解きの答えを教えるわけにはいかないが、過去のどんでん返しミステリーには主にふたつのパターンがある。まず犯罪を仕掛けた黒幕の存在やトリックの全貌を、ラストで明かして観客を唸らせる『ユージュアル・サスペクツ』『ソウ』タイプ。もうひとつは、それまでのストーリーや世界観そのものを根底からひっくり返して観る者を愕然とさせる『ファイト・クラブ』『シックス・センス』タイプだ。いわば前者は緻密にして鮮やかな〈巧妙型〉のどんでん返しで、後者はトリッキーなまでに大胆な〈荒技型〉のどんでん返しと言えよう。『シャッター・アイランド』の凄いところは〈巧妙型〉と〈荒技型〉の両パターンを見事に融合し、ミステリー映画史上希に見る衝撃のラストの創造を成し遂げたことだ。今後長らく映画ファンの間で語り草になるであろう〈究極のどんでん返し〉を目撃し、ぜひとも〈最驚の快感〉にどっぷり浸ってほしい。
文:高橋諭治
ページトップへ
ホームへ
ぴあ映画生活トップへ
(C)2009 PIA
Design:+D